俳句にチャレンジ　第48回

第48回　2012年8月

句評　　　　　村野　太虚

暑き日を語り尽くして夜の蝉　　露徒
　蝉も夜となれば睡眠をとるそうである。＜何もしない状態＞が蝉の睡眠。目覚めればひたすら鳴きさけぶ。夏のいちにちの暑さを語りつくす。そして夜ひっそり眠る。7日間鳴きとおし、そしてやがてポトリと墜ちて死ぬ。蝉の命、7日間を語りつくす。

蝉４句

病床の外に無数の蝉生きる　　こころ
　ふだんは蝉は季節がくれば自然と鳴いているもので特に意識することもない。ところが病床に静かに臥すとき無数の生命の存在に気付く。自分のいのちの貴さを抱きしめる。
空蝉や命の証示しけり　　蓮華
　パッカリと斬られたようにあいている空蝉の背中、ここからあのみづみづしい蝉がぬけ出していったのだ。
新涼やピタリと止みし蝉の声　　文福
今年のように長い夏。そして蝉が突然鳴きやんだ時、新涼を痛切に実感。
天界に散華きらきら蝉の昼　　誓子

　　横に寝る妻の団扇のもらい風　　雅柳
　　　妻に煽いでもらっているのでなく横にいる妻の団扇風の余禄をうけているのである。

　　炎天下仏に捧ぐ氷水　　真
　　　ダブル季語になっています。

　　秋夕焼元老院の血汐かな　　五郎
　　　ジュリアス・シーザー。

　　石の露五十路半ばや光苔　　文福
　　　ひかりごけは北海道羅臼地区をはじめ各地に分布する希少貴種。岩窟内などにひっそりエメラルドグリーンの妖しい神秘的な光を放つ。武田泰淳のおどろおどろしい小説があるが、これはみずからの半生を抑えて美しくうたってる。

秀句三選

処理場へ貨車連なりて雲の峯　　緑舟
　＜処理場＞は無機物のゴミのようなものの処理だろうか、いや有機物のあるいは動物、ひょっとすると豚、牛の類だろうか、遠い昔、アウシュビッツでは人でさえあった。人を貨車に詰め込んで＜貨車連なりて運び込み＞ガスで＜処理＞をした。＜雲の峰＞が永遠をメタファーする。
法師ぜみ休暇の終えし子の発てり　　山法師
　ツクツクボーシの鳴きしきる間、子供らは古里の山野をかけめぐり、ツクツクボーシとともに故郷を発って行った。季節はいま秋。充実感と静けさと淋しさの中にいる。
湯上りに下駄を鳴らすや虫の声　　風水
　首都圏のマンション主流派にはもはや卿愁である。銭湯をあがって下駄を鳴らして帰れば、虫の声がする。爽やかなさっぱりとした気持ちで下駄をはいてコオロギの声でも聞きたいものだ。でもマンションには下駄も銭湯もない。虫もいなくなった。

入選七句

エクステリア&ガーデン