第84回 2015年8月

句評     村野 太虚
新涼や煮えの音聞く夕間暮   穭
  すっかり涼しくなってきた。長かった炎暑もやんだと思ったらもう秋だ。なにやら片隅から鍋の煮立つ音がグツグツ聞こえてくる。その音もまた新涼の到来を讃えているようだ。あたりはだんだん薄暗くなってきた。<夕間暮れ>の措辞が効果音で奏功。まぐれは目(間)暗(ぐれ)から、といわれる。


    八月八日ごろの立夏から十一月八日の立冬前日までを秋と考えるのが一般。その季節を現す意味のほかに「もののあわれは秋こそまされ」と古人がいったように、あわれとか衰えたとかいう意味も付属してくるようである。(八束)

秋高し赤一色のカープ女子  雅柳
  黒田、がんばれ!前健がんばれ!広島カープ女子軍団の威力!
ガス灯に明治を偲ぶ秋の風  風水
秋の蝶心急いで飛び回る  空飛
エアコンを見上げて思案秋暑し  秋水
季節折りセミの鳴き声秋涼し  拶木
風の跡触れていたくて夜の秋  耕泉
歩をゆるめ宝さがしの秋の道  ろんど
その後(のち)の闇深くして大花火  文福
  三尺玉がどーんとあがった! その後の闇の深さ。
芒野や明日は見えねど風の道  露徒
  野分が吹きぬけて芒の道をつくっていった。明日見えぬ寂寥感!
掃苔や蟻にかぶさる杓清水  三郎
  墓参りのときの蟻がうろうろ。杓の水をあびた。
真田路の日暮れをはやむ胡麻の花  苑葉
人波を忽ちに消す大夕立  大雅
里山の境を越えて零(こぼ)れ萩  空飛
暁と虫の声聞き二度寝かな  淡雪
  長い闘病生活のひとこま。
こわもての席譲りをり涼新た  文福
  こわもての風貌のにいさんが意外にも老婆のためにサッと席をゆずったのだ。

秀句三選

入選七句

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