第89回 2016年1月

句評     村野 太虚
冬菊や旅終わりなき長良川  露徒
  ある寺をたづねて旅をしていた。それは曾良の伯父の寺大智院(芭蕉も曾良もここへ宿泊した)だった。私もここを訪れ、芭蕉と曾良の長い旅のことを想った。ふと途中で目に入った冬菊のことが目に浮かんできた。ああ、冬菊も秋から冬へと長い時間を凛として咲いていることよ。長旅の私はあの同行ふたりの旅の想いとをふと重ねたのだった。  

春一番
  春になって最初に吹く強い雨よりの風で二月中旬か三月はじめ頃である。春一とも言う。

終わり告げ始まり告げし春一番  大雅
  冬の終わりを告げてくれ春の始まりをつげてくれた春一番よ!
膝掛や読みたい本の二三冊  雅柳
  春の日に好きな本を膝掛に。
ボンネット鎮座まします雪だるま  大福
湯上りのお吉が拾ふ春の貝  三郎
  唐人お吉。湯上りのところをハリスに見染められたが最後は乞食の群れに入って裸足で歩く生活に。下田の人に石を投げられ51歳の春豪雨の中蓮台寺川へ裸足で飛び込んで死んだ。
豆の数古希の節分食べきれず  淡雪
裸木やはりめぐらされしラビランス  文福
  ラビランス→迷宮。魔王のはりめぐらした白い迷宮。
燗酒や背広姿の巡礼者  露徒
  白衣、手甲でなく背広。般若湯どころか燗酒。現代青年の颯爽とした後ろ姿。
雪さりて友をなくしたダルマかな  高白
初晴れやゲレンデで飲む赤ワイン  花乃
  おいしそうですなあ。うらやましいですなあ。
サクサクと無邪気がのぞく雪の朝  栗鼠
びっしりと春閉じ込める蕾かな  文福
  春がわらいながら蕾の中でこごんで待機しているのですなあ。もうすぐに春の炸裂!

秀句三選

入選七句

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