風景(花・緑・レンガ)

 ロバートソン邸、アンドリュース邸で見た美しさは、ロンドン近郊のレンガアパート群とは全く違う世界であった。しかしそのいずれもが、過去のイギリスの住宅(映画等で見る)と同じものであるという事実である。逆に日本の様に木からコンクリート、タイルへの変化を遂げた住宅を見ると、その建築文化というものに一つの疑問をいだかずにはいられない。高気密、高断熱住宅の果てがガーデニングである。コスト面ばかりを追求してきた日本の住宅が、ヨーロッパ、ことにこの英国の住宅の内部と外部を見て一種の恥しさを覚えたのは私だけではあるまい。高度成長に支えられて逆に日本の住宅文化を失った日本の住宅産業に反省すべき点は多い。やはり表面だけの世界から脱皮する時期に来ているように思える。今回は、緑、花という部分をお見せしたくて、写真を選んだ。

左:バラの真っ赤な実が青空に美しい
右:ケマン草の一種、ピンクの花が可憐だ
イギリスからフランスへ
ユーロスターでフランスへ

イギリスにおけるガーデンのあり方を垣間見ることができた一日。日本では、北海道を除いて仲々見られない緑の草原。そして、その緑に映えるレンガ造りの家々、翌16日、ロンドンからユーロスターで、ドーバー海峡をくぐり抜けた折に見た風景は「我ふるさとは緑なりき」という決して表面的には豊かさは見えないものの、雨水が台地にしみ込んだイギリスならではの景観であった。

ロンドンの街中の景観も他のヨーロッパ諸国とは違って、ある種の落ち着きを感じさせ、全体的には質素という印象を受けた。一方、ユーロスターで、降りたったリールは、その建物の雰囲気が一変しているのに驚かされた。駅内部もそうだが、駅からエスカレーターで登りつめた入口には、L字型の近代的高層ビルがそびえ立っている。多分、リール(Lille)駅の頭文字を配した駅ビルとなっているのであろう。そのビルの横手には、木製の大型花壇、そして舗装平板は、白の石片をちりばめたものであった。古い街と新しい街、イギリスとフランスという対比ができ興味深かった。


アクリル生地の有力メーカーディクソン社
倉庫の中には出荷待ちの生地が
 北フランスの主要都市リール市に位置するディクソン社(DICKSON・CONSTANT)が次の訪問先である。年商8億フラン(約170億円)で、約40%がオーニング用といわれるから、約70億円。ヨーロッパでは、最大級のオーニング基布メーカーである(従業員は約250名)。まず、社長のユージン・デルプランク氏から歓迎のあいさつがあり、アラン・トログニオン氏(マーケティング部長)から会社概況の説明があり、工場見学を行った。
 ディクソン社の特徴は、原着アクリル繊維を使用して最大幅2400_bの先染織物の生産、販売を行っていることである。そのオーニング用生地は、日本へも輸出され、テンパルが年間、約1万8000b程度購入している。同社の現在の生産量についての明確な数字は出してもらえなかったが、同行のユニチカグラスファイバーの吉田茂技術開発部長によると、設備などから推定して年間400万b程度の生産量ではないかとのことであった。耳栓を与えられて入った工場内は、まるで別世界、百台以上の織機がうなり声をあげて基布を織りあげる。その機械も古いタイプから新しいタイプまで様々。まさに個性派の役者がそれぞれに一所懸命の演技を行っているという風情であった。この後、染色工程、立体倉庫、各種試験室等を見学約一時間半の工程を終えた。
糸から布へ
 ディクソン社の訪問は実は2回目、約10年ぶりの訪問である。外観は変わりない同社(当時工場は真新しかった)も、時代による疲れというものを感じた。経営陣の目もどこか光を失ったような表情を感じた。やはりここでもある程度の不況感がにじみ出ていた。新しい原着ラインの導入も始まったばかりだ。